不確かな情報の扱い方 政策決定者は確実性だけでなく可能性も考慮する
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●Handling—and Mishandling—Intelligence
by Paul R. Pillar(Former CIA Analyst)
National Interest, March 5, 2024
by Paul R. Pillar(Former CIA Analyst)
National Interest, March 5, 2024
➡米国とイスラエルの二重国籍者で、ロシアと不透明なコネクションを持つアレクサンダー・スミルノフ(Alexander Smirnov)氏は、米国のジョー・バイデン(Joe Biden)大統領の息子、ハンター・バイデン(Hunter Biden)氏がウクライナの企業に関わる怪しげなビジネスに関与していると証言し、バイデン政権を批判する材料を見つけた共和党議員たちはにわかに活気づいた。
➡ところが、米連邦捜査局(FBI)は今年2月、スミルノフ氏の証言が虚偽だったとして起訴に踏み切った。FBIは、スミルノフ氏が嘘をついた動機について明らかに政治的な意図にもとづくものであり、さらにスミルノフ氏が接触していたロシア情報機関の関係者が嘘の流布に関与していたと指摘した。
➡FBIは、当初からスミルノフ氏の証言を信用していたわけではない。他の情報の分析やスミルノフ氏の人脈にもとづいて、その証言が信頼できないものと判断し、彼を持ち上げる共和党議員に対して鵜呑みにしないように警告を発した。だが、弾劾推進派がこの証言に走るのを止められなかったし、スミルノフ氏の起訴が発表された後、下院司法委員会委員長を務める共和党のジム・ジョーダン(Jim Jordan)議員は、そもそもスミルノフ氏の証言に耳を傾けたFBIを非難しようとするのを止めることもできなかった。
➡疑わしい情報を公に利用することについて警告が出されたにもかかわらず、それが無視されたことは、20年以上前、ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)政権がイラク戦争のアイディアを売り込んでいたときのエピソードを想起させる。そのエピソードとは、イラクがニジェールからウラン鉱石を輸入したという外国情報機関の報告書である。米中央情報局(CIA)の分析官たちは、当初からこの報告書に関して大きな疑問を抱いていた。なぜなら報告書の情報源が弱かったからである。イラクはすでにウラン鉱石を備蓄していたし、さらに購入する必要はなかった。問題のウラン鉱山に関しても、他の情報からそのような輸出を行なっている可能性はないと示唆された。CIAはホワイトハウスに対して、この報告書を公に使わないように繰り返し警告した。
➡だが、イラク侵攻の支持を取り付けたい政府高官たちは、その警告を受けても思いとどまることはなかった。ウラン購入という話は、イラクの核兵器開発に関する技術的な側面よりも国民に売り込みやすい単純さがあった。ホワイトハウスは、この報告書を利用しようと働きかけた結果、2003年に出したブッシュ大統領の一般教書演説で、何の疑問も注意書きもなく、この報告書に言及した。そして実際、イラクに向けられた核開発疑惑を示す証拠は見つからず、その責任を情報機関に向けたのだった。
➡この2つの事例で共通しているのは、悪い情報を公に広めた人物には、真実性の基準を脇に追いやり、広めるという強い政治的、あるいは政策的動機があったということである。このような性質の爆弾報道がなされた場合、一般市民や報道関係者にとって教訓となるのは、その報道を行なった人たちの動機を調べ、その報道が妥当かどうかの評価に反映させることである。
➡国民は、物事を理解する上で大きく根本的なギャップがある。すなわち、確証の高い情報がある一方、重要なトピックであるから無視できないとはいえ、確かな情報とは言えず、さらなる裏付けが必要とする報道もある。国民はしばしば、それを区別することができない。良い情報であれば、即座に行動に移せる。しかし、もし悪い情報と見なされれば、その情報を即座に破棄すべきだし、もしそうしないのであれば、その人には悪意があるか、もしくは無能であるかと見なされることになるだろう。
➡一例として、「スティール文書」(トランプ前大統領とロシアの関係を裏付けるものとして話題になったが、のちに民主党側の依頼で作られた虚偽文書であることが判明)に関するものが挙げられる。この文書を作成したのは、元英秘密情報部員のクリストファー・スティール(Christopher Steele)という人物だが、この人物は文書の内容が事実であるということ以外は何も語らなかった。文書には、いくつかのストーリーがあり、そこに含まれる情報がすべて良いとも悪いともいえない。真実もあれば、真実でないものもあり、確認できないものもある。
➡とくに外交政策においては、秘密を守ろうとする外国を相手とするため、完全でも確実でもない報告には慎重になる必要がある。正確な情報を入手するのは、得てして難しい。重要な問題に直面しているなら、不完全だったり、あいまいだったり、妥当性に疑問を覚えたりするからといって、情報を即座に切り捨てるわけにはいかない。明らかに奇妙な内容であっても、そこから有益なものを引き出すために、さらなる調査や情報収集の手がかりとして利用することも必要である。
➡FBIは本来、その作業を専門とする政府機関である。捜査では、たとえ真偽が疑わしい情報であっても、それを手がかりにしながら最終的には確実で完全な情報を集めようとする。実際、FBIは麻薬密売人や組織犯罪のメンバー、あるいはテロリストなど、潜在的な偏見や動機、知識を持つ情報源から定期的に情報を得ている。
➡トランプ前大統領とロシャの関係に関わる問題に対するFBIの捜査は、米国の国家安全保障上、重要な問題である。そのやり方はゴミのような情報を手がかりにして、より正確な情報に近づこうとするFBIの中核的な任務に則ったものである。今日までトランプとロシアとの取引について答えが出ていないが、それと同じく不穏な疑問もあるのである。FBIがより良い答えを求めるために、スティール文書を含め、あらゆるゴミのような情報でも捜査に活用しなかったとしたら、それこそ職務怠慢であろう。
➡CIAもまた、断片的であいまい、かつ疑わしい情報源から政策決定者の意思決定に役立つような、海外情勢に関する健全で一貫したイメージを構築する。そのような仕事を担う分析官がCIAには大勢いる。彼らには警告、注意書き、信頼度といった用語を駆使して、自分たちが提供する情報の本質を政策決定者に伝える責任がある。
➡他方、政策決定者は、良い情報だけでなく不確かな情報も入手できるようにする責任がある。なぜなら、政策決定者は確実性だけでなく可能性も考慮しなければならないからである。ただし、その判断が間違っていることもある。
➡この責任を果たすためには、残念ながら政策決定者がそのような情報を誤用する可能性が伴う。情報機関は、その可能性を痛感しており、過去に悪用された事例を数多く知っている。だが結局、情報を差し止めるという選択肢はない。そしてこれは、弾劾を推進する共和党がスミルノフ証言で犯したような政治的影響を受けた悪事につながりかねない。
➡ところが、米連邦捜査局(FBI)は今年2月、スミルノフ氏の証言が虚偽だったとして起訴に踏み切った。FBIは、スミルノフ氏が嘘をついた動機について明らかに政治的な意図にもとづくものであり、さらにスミルノフ氏が接触していたロシア情報機関の関係者が嘘の流布に関与していたと指摘した。
➡FBIは、当初からスミルノフ氏の証言を信用していたわけではない。他の情報の分析やスミルノフ氏の人脈にもとづいて、その証言が信頼できないものと判断し、彼を持ち上げる共和党議員に対して鵜呑みにしないように警告を発した。だが、弾劾推進派がこの証言に走るのを止められなかったし、スミルノフ氏の起訴が発表された後、下院司法委員会委員長を務める共和党のジム・ジョーダン(Jim Jordan)議員は、そもそもスミルノフ氏の証言に耳を傾けたFBIを非難しようとするのを止めることもできなかった。
➡疑わしい情報を公に利用することについて警告が出されたにもかかわらず、それが無視されたことは、20年以上前、ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)政権がイラク戦争のアイディアを売り込んでいたときのエピソードを想起させる。そのエピソードとは、イラクがニジェールからウラン鉱石を輸入したという外国情報機関の報告書である。米中央情報局(CIA)の分析官たちは、当初からこの報告書に関して大きな疑問を抱いていた。なぜなら報告書の情報源が弱かったからである。イラクはすでにウラン鉱石を備蓄していたし、さらに購入する必要はなかった。問題のウラン鉱山に関しても、他の情報からそのような輸出を行なっている可能性はないと示唆された。CIAはホワイトハウスに対して、この報告書を公に使わないように繰り返し警告した。
➡だが、イラク侵攻の支持を取り付けたい政府高官たちは、その警告を受けても思いとどまることはなかった。ウラン購入という話は、イラクの核兵器開発に関する技術的な側面よりも国民に売り込みやすい単純さがあった。ホワイトハウスは、この報告書を利用しようと働きかけた結果、2003年に出したブッシュ大統領の一般教書演説で、何の疑問も注意書きもなく、この報告書に言及した。そして実際、イラクに向けられた核開発疑惑を示す証拠は見つからず、その責任を情報機関に向けたのだった。
➡この2つの事例で共通しているのは、悪い情報を公に広めた人物には、真実性の基準を脇に追いやり、広めるという強い政治的、あるいは政策的動機があったということである。このような性質の爆弾報道がなされた場合、一般市民や報道関係者にとって教訓となるのは、その報道を行なった人たちの動機を調べ、その報道が妥当かどうかの評価に反映させることである。
➡国民は、物事を理解する上で大きく根本的なギャップがある。すなわち、確証の高い情報がある一方、重要なトピックであるから無視できないとはいえ、確かな情報とは言えず、さらなる裏付けが必要とする報道もある。国民はしばしば、それを区別することができない。良い情報であれば、即座に行動に移せる。しかし、もし悪い情報と見なされれば、その情報を即座に破棄すべきだし、もしそうしないのであれば、その人には悪意があるか、もしくは無能であるかと見なされることになるだろう。
➡一例として、「スティール文書」(トランプ前大統領とロシアの関係を裏付けるものとして話題になったが、のちに民主党側の依頼で作られた虚偽文書であることが判明)に関するものが挙げられる。この文書を作成したのは、元英秘密情報部員のクリストファー・スティール(Christopher Steele)という人物だが、この人物は文書の内容が事実であるということ以外は何も語らなかった。文書には、いくつかのストーリーがあり、そこに含まれる情報がすべて良いとも悪いともいえない。真実もあれば、真実でないものもあり、確認できないものもある。
➡とくに外交政策においては、秘密を守ろうとする外国を相手とするため、完全でも確実でもない報告には慎重になる必要がある。正確な情報を入手するのは、得てして難しい。重要な問題に直面しているなら、不完全だったり、あいまいだったり、妥当性に疑問を覚えたりするからといって、情報を即座に切り捨てるわけにはいかない。明らかに奇妙な内容であっても、そこから有益なものを引き出すために、さらなる調査や情報収集の手がかりとして利用することも必要である。
➡FBIは本来、その作業を専門とする政府機関である。捜査では、たとえ真偽が疑わしい情報であっても、それを手がかりにしながら最終的には確実で完全な情報を集めようとする。実際、FBIは麻薬密売人や組織犯罪のメンバー、あるいはテロリストなど、潜在的な偏見や動機、知識を持つ情報源から定期的に情報を得ている。
➡トランプ前大統領とロシャの関係に関わる問題に対するFBIの捜査は、米国の国家安全保障上、重要な問題である。そのやり方はゴミのような情報を手がかりにして、より正確な情報に近づこうとするFBIの中核的な任務に則ったものである。今日までトランプとロシアとの取引について答えが出ていないが、それと同じく不穏な疑問もあるのである。FBIがより良い答えを求めるために、スティール文書を含め、あらゆるゴミのような情報でも捜査に活用しなかったとしたら、それこそ職務怠慢であろう。
➡CIAもまた、断片的であいまい、かつ疑わしい情報源から政策決定者の意思決定に役立つような、海外情勢に関する健全で一貫したイメージを構築する。そのような仕事を担う分析官がCIAには大勢いる。彼らには警告、注意書き、信頼度といった用語を駆使して、自分たちが提供する情報の本質を政策決定者に伝える責任がある。
➡他方、政策決定者は、良い情報だけでなく不確かな情報も入手できるようにする責任がある。なぜなら、政策決定者は確実性だけでなく可能性も考慮しなければならないからである。ただし、その判断が間違っていることもある。
➡この責任を果たすためには、残念ながら政策決定者がそのような情報を誤用する可能性が伴う。情報機関は、その可能性を痛感しており、過去に悪用された事例を数多く知っている。だが結局、情報を差し止めるという選択肢はない。そしてこれは、弾劾を推進する共和党がスミルノフ証言で犯したような政治的影響を受けた悪事につながりかねない。