北朝鮮の偵察衛星打ち上げ成功と金正恩神話崩壊の可能性
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●North Korea's Satellite Launch: Part of a Bigger Problem for Kim Jong-un?
by Bruce W. Bennett (Senior Researcher, RAND Corporation)
by Bruce W. Bennett (Senior Researcher, RAND Corporation)
National Interest, December 1, 2023
➡11月21日、北朝鮮は2023年に入って3回目の偵察衛星打ち上げを試みた。この打ち上げは複数の国連安全保障理事会決議に違反し、他の多くの国々の働きかけにもかかわらず、北朝鮮は断行した。北朝鮮は打ち上げの理由について、すべてを明らかにしていないが、より広く見れば、これは北朝鮮の指導者、金正恩による必死の行動だった可能性が高い。
➡そもそも、なぜ北朝鮮は偵察衛星を必要とするのだろうか。ニュースでは、「北朝鮮は今回の打ち上げを『自衛能力』を強化するための『正当な』権利だと擁護した」という。さらに金正恩は、偵察衛星は「敵対勢力による危険な侵略の動きを抑制する」ために必要だと説明した。これは、米国は侵略を企てる不倶戴天の敵国であり、莫大な軍事予算(GDPの20~30%と推定される)を賄うために、北朝鮮国民の犠牲を正当化するのに好都合な常套句である。また、北朝鮮は金正恩政権の数々の失敗を説明するために、米国への敵意を利用しているところもある。
➡だが、なぜ米国が北朝鮮を侵略しようとするのか。北朝鮮の核兵器を検討する前に、もし米国が北朝鮮に侵攻したとしても、米国にとってほとんど得るものがないにもかかわらず、生命と財産という信じられないような代償を払うことになる。実際、米国は長年にわたって、一貫して北朝鮮の軍事的挑発を緩和しようとしてきたが、これは報復がエスカレートし、望まない戦争に発展することを恐れていたからである。
➡さらに、北朝鮮は韓国をはじめ、世界各地にスパイを配置し、偵察衛星が求めるような情報の多くをすでに収集しているのではないか。もちろん、北朝鮮は金正日を本当に怖がらせるような外部の情報にさらされることを懸念し、海外から人員を呼び戻している最中であろう。
➡北朝鮮は、体制への忠誠心が外界で見聞きする「堕落」から守ってくれることに期待し、エリートたちの海外赴任に依存してきた。ある脱北者によれば、「率直に言って、海外で長期間、働いたことのある人たちは、北朝鮮の国家体制が正常なものではないことを理解している」という。このような外部情報の一部は、海外にいる者が帰国する際、友人や家族に注意深く伝えられるという。それでも他の脱北者は、「何千人もの在外北朝鮮人が3年半ぶりに帰国すると、何カ月もの『再教育』セッション、あるいは強制労働が待っている」と証言している。
➡金正恩は、どれほど心配しているのだろうか。数年前、彼はK-POPさえも「悪質なガン」であり、若い世代のモラルを低下させていると述べた。北朝鮮の国営メディアは、K-POPを止めない限り、政権が「湿った壁のように崩壊する」可能性があると続けた。金正恩にとって体制崩壊ほど怖いものはない。金正恩は、外部の情報を非常に恐れており、韓国映画を観ただけでも10年以上の重労働を課している。
➡金正恩は、世界中にいるスパイの代わりに、同じような情報を収集するが、エリートのメンバーに体制神話を崩すような情報を提供しない偵察衛星を使うことを望んでいるのだろうか。金正恩にとって不運なことに、北朝鮮の海外要員の多くは、政府のために外貨を稼ぐ労働者である。金正恩体制は、これらの人員を排除するのではなく、外貨獲得の流れを維持するために入れ替えるつもりなのである。
➡加えて、歴史的に金正恩は、ミサイル発射実験と核兵器を使って国民に力を誇示してきた。金正恩は自分の業績に関する質問を避けるため、2022年3月16日に発射されたICBMがピョンヤンの真北で爆発し、ミサイルの破片が降り注いだときも、それを取り繕おうとした。その点で北朝鮮が2023年5月と8月に偵察衛星の打ち上げ失敗を認めたことは驚きだった。金正恩がそうしたのは、外部の機密情報が少なくとも一部の北朝鮮エリートに伝わり、そのエリートが金正恩の欺瞞を見破ったからなのだろうか。金正恩が外部からの情報を排除しようと努力しているにもかかわらず、北朝鮮は外部からの情報に対して脆弱になっているのだろうか。もしそうであれば、北朝鮮の神話は大きく崩れ、米韓両国は北朝鮮の体制に影響力を持つことになる。
➡もちろん、その2回の打ち上げ失敗を認めたことは、金正恩の威信を失墜させただろう。エリートたちは、金正恩を弱いと見たかもしれない。金正恩は偵察衛星の打ち上げを大々的に宣伝していたので、成功が不可欠だった。北朝鮮の専門知識と技術がその成功をもたらさなかったので、金正恩はロシアに支援を求めた。金正恩はロシアを訪問し、そこでロシアの宇宙専門家に助言を求めることができる北朝鮮の科学者も連れて行った。北朝鮮はロシアの科学者に宇宙ロケットの設計図まで提供し、フィードバックを得ているようである。2週間後、「ロシアの軍用機がモスクワから直接、ピョンヤンに飛んだ」というニュースが流れたが、おそらくそれは、北朝鮮の宇宙ロケットを修理するために必要な部品と科学者を北朝鮮に送ったのだろう。同じ飛行機が11月7日・22日にもウラジオストクからピョンヤンに飛んでおり、おそらく打ち上げ成功のため、ロシアからさらに支援がなされ、偵察衛星の運用を機能させる手助けをしたと推測される。
➡もちろん、ロシアの援助に頼ることは、北朝鮮の哲学「主体(チュチェ)」とはかけ離れたものである。北朝鮮は、少なくとも国内向けには強大な国であると主張し、理論的にはほとんど何でも独自に成し遂げることができるはずである。だが今、少なくとも一部のエリートは、そして外部の情報がエリートに届けば、多くのエリートが金正恩は偵察衛星打ち上げを成功させるために主体性を放棄したことを知っている。
➡金正恩は、自分の神話が崩れつつあることを感じているのだろう。これは北朝鮮に影響を与えるチャンスであるだけでなく、金正恩がコントロールを失いつつあると恐れ始めた場合、かなりの危険を伴うものでもある。
➡そもそも、なぜ北朝鮮は偵察衛星を必要とするのだろうか。ニュースでは、「北朝鮮は今回の打ち上げを『自衛能力』を強化するための『正当な』権利だと擁護した」という。さらに金正恩は、偵察衛星は「敵対勢力による危険な侵略の動きを抑制する」ために必要だと説明した。これは、米国は侵略を企てる不倶戴天の敵国であり、莫大な軍事予算(GDPの20~30%と推定される)を賄うために、北朝鮮国民の犠牲を正当化するのに好都合な常套句である。また、北朝鮮は金正恩政権の数々の失敗を説明するために、米国への敵意を利用しているところもある。
➡だが、なぜ米国が北朝鮮を侵略しようとするのか。北朝鮮の核兵器を検討する前に、もし米国が北朝鮮に侵攻したとしても、米国にとってほとんど得るものがないにもかかわらず、生命と財産という信じられないような代償を払うことになる。実際、米国は長年にわたって、一貫して北朝鮮の軍事的挑発を緩和しようとしてきたが、これは報復がエスカレートし、望まない戦争に発展することを恐れていたからである。
➡さらに、北朝鮮は韓国をはじめ、世界各地にスパイを配置し、偵察衛星が求めるような情報の多くをすでに収集しているのではないか。もちろん、北朝鮮は金正日を本当に怖がらせるような外部の情報にさらされることを懸念し、海外から人員を呼び戻している最中であろう。
➡北朝鮮は、体制への忠誠心が外界で見聞きする「堕落」から守ってくれることに期待し、エリートたちの海外赴任に依存してきた。ある脱北者によれば、「率直に言って、海外で長期間、働いたことのある人たちは、北朝鮮の国家体制が正常なものではないことを理解している」という。このような外部情報の一部は、海外にいる者が帰国する際、友人や家族に注意深く伝えられるという。それでも他の脱北者は、「何千人もの在外北朝鮮人が3年半ぶりに帰国すると、何カ月もの『再教育』セッション、あるいは強制労働が待っている」と証言している。
➡金正恩は、どれほど心配しているのだろうか。数年前、彼はK-POPさえも「悪質なガン」であり、若い世代のモラルを低下させていると述べた。北朝鮮の国営メディアは、K-POPを止めない限り、政権が「湿った壁のように崩壊する」可能性があると続けた。金正恩にとって体制崩壊ほど怖いものはない。金正恩は、外部の情報を非常に恐れており、韓国映画を観ただけでも10年以上の重労働を課している。
➡金正恩は、世界中にいるスパイの代わりに、同じような情報を収集するが、エリートのメンバーに体制神話を崩すような情報を提供しない偵察衛星を使うことを望んでいるのだろうか。金正恩にとって不運なことに、北朝鮮の海外要員の多くは、政府のために外貨を稼ぐ労働者である。金正恩体制は、これらの人員を排除するのではなく、外貨獲得の流れを維持するために入れ替えるつもりなのである。
➡加えて、歴史的に金正恩は、ミサイル発射実験と核兵器を使って国民に力を誇示してきた。金正恩は自分の業績に関する質問を避けるため、2022年3月16日に発射されたICBMがピョンヤンの真北で爆発し、ミサイルの破片が降り注いだときも、それを取り繕おうとした。その点で北朝鮮が2023年5月と8月に偵察衛星の打ち上げ失敗を認めたことは驚きだった。金正恩がそうしたのは、外部の機密情報が少なくとも一部の北朝鮮エリートに伝わり、そのエリートが金正恩の欺瞞を見破ったからなのだろうか。金正恩が外部からの情報を排除しようと努力しているにもかかわらず、北朝鮮は外部からの情報に対して脆弱になっているのだろうか。もしそうであれば、北朝鮮の神話は大きく崩れ、米韓両国は北朝鮮の体制に影響力を持つことになる。
➡もちろん、その2回の打ち上げ失敗を認めたことは、金正恩の威信を失墜させただろう。エリートたちは、金正恩を弱いと見たかもしれない。金正恩は偵察衛星の打ち上げを大々的に宣伝していたので、成功が不可欠だった。北朝鮮の専門知識と技術がその成功をもたらさなかったので、金正恩はロシアに支援を求めた。金正恩はロシアを訪問し、そこでロシアの宇宙専門家に助言を求めることができる北朝鮮の科学者も連れて行った。北朝鮮はロシアの科学者に宇宙ロケットの設計図まで提供し、フィードバックを得ているようである。2週間後、「ロシアの軍用機がモスクワから直接、ピョンヤンに飛んだ」というニュースが流れたが、おそらくそれは、北朝鮮の宇宙ロケットを修理するために必要な部品と科学者を北朝鮮に送ったのだろう。同じ飛行機が11月7日・22日にもウラジオストクからピョンヤンに飛んでおり、おそらく打ち上げ成功のため、ロシアからさらに支援がなされ、偵察衛星の運用を機能させる手助けをしたと推測される。
➡もちろん、ロシアの援助に頼ることは、北朝鮮の哲学「主体(チュチェ)」とはかけ離れたものである。北朝鮮は、少なくとも国内向けには強大な国であると主張し、理論的にはほとんど何でも独自に成し遂げることができるはずである。だが今、少なくとも一部のエリートは、そして外部の情報がエリートに届けば、多くのエリートが金正恩は偵察衛星打ち上げを成功させるために主体性を放棄したことを知っている。
➡金正恩は、自分の神話が崩れつつあることを感じているのだろう。これは北朝鮮に影響を与えるチャンスであるだけでなく、金正恩がコントロールを失いつつあると恐れ始めた場合、かなりの危険を伴うものでもある。